「ヘーゲルとハイチ」

スーザン・バック=モースの「ヘーゲルとハイチ」を読んだ。

『現代思想』2007年7月臨時増刊号のヘーゲル特集に掲載された論文で、もとは『クリティカル・インクワイアリー』誌の2000年夏号が初出。B=モースのこの論考のコピーを、訳者であり今は大連で日本語を教えている高橋さんから頂いた。

この論考は、ヘーゲル思想におけるハイチ革命のインパクトを考察するという、問題発見的なものだ。B=モースによれば、この200年間、ヘーゲルとハイチとの関わりを論及する論文は皆無に等しかった。この等閑視し続けられてきた問題を「発見」し、そこからヘーゲルに立脚する西欧近代的な思想のあり方を問い直すという途方もない射程をもった、素晴らしい論文だ。

B=モースのこの論考は、100以上におよぶ膨大な注とそれ以上の文献に裏づけられているとはいえ、実証研究の水準では、おそらく推論の域を出ないのだろう。しかし、ぼくはこうした論考こそ真の論文だと思う。研究における創造的な仕事があるとしたら、まさにこうしたB=モースの仕事を言うのではないだろうか。そのぐらい、「ヘーゲルとハイチ」は魅力的だ。

こうした創造的な論文を読むと、とても勇気づけられるし、論文という形式を表現の根拠に置きながらも、その形式性がしばしば書き手に強いる拘束性をはるかに超えた、優れた仕事がありうることをB=モースの仕事は教えてくれる。訳はとても読みやすかった。

コメント

norah-m さんのコメント…
年をまたいで、フォークナーとハイチについての論文(Richard Godden, 'Absalom, Absalom! Haiti, and Labor History')を読んでいます。そこでもヘーゲルが登場し、ちょうどあれこれ考えていた(というよりわからずに混乱していた)ところだったので、偶然のエントリーにびっくり!
B=モースについて、今度ぜひご教示くださいね。
omeros さんの投稿…
あけましておめでとうございます。フォークナーとハイチについての論文、面白そうですね。今度ご紹介くださいね。B=モースの論文は忘れなければ今度お会いするときにお渡ししますね。