ハチドリ分譲地周辺私的バス事情


いま住んでいる場所は「ハチドリ分譲地」という住所の丘の中腹。そこからフォール=ド=フランス市内に出るのに、バスを利用する。バスは、ハチドリ分譲地の周辺は比較的通る方で、一時間のうちに3、4本ある。でも、来る時間はどれもほとんど一緒で、たとえば、8時台の便であれば、8時前後か、9時にかぎりなく近い時間に通る。だから、日本の時刻表でいう20分や15分に一本という間隔ではない。バスの運転手がストライキを起こしている今現在では、本数は少なく、いつ来るのかは不明である。バスを待つ人の行為でよく見かけるのは、ヒッチハイク。人差し指を突き立てて、手を道路にむかって横に出していると、10分待てばたいてい車を拾える。たいして、ぼくはバスを少年少女やおじいさん、おばあさんたちとともにじっと待つ。じっと待つこと30分もすれば、バスはたいたいやってくるからだ。こちらに来てまもないある日曜日の午前中、バス停で、不安な気持ちでバスを待っていた。バス停には、サクレ・クール行きの時刻表が貼っているだけ。(サクレ・クールといえば、モンマルトルの丘にある有名な聖堂を思い起こすが、マルティニックのサクレ・クールはパリのそれを模造したものであり、バラタ植物園に行く道の途中にある。)時刻表は1時間に一本しかないサクレ・クール行の便の時間が乗っているのだが、日曜日には印がない。町中がほほすべて閉まり閑散とする日曜日にはおそらくバスは走っていないだろうと半ばあきらめつつ待っていると、そこにインド系の顔立ちの上品そうな小柄なおばあさんがやってきた。どうやらおばあさんもバスを待つ気らしい。少し経ち、同じく不安な気持ちになったおばあさんは、一緒にいたぼくに「バスは来るのかね」と聞いてきた。時刻表を示し、今日は来ないかもしれない、と告げたが、丘の上に上ってゆくバスは見かけた、と言うと、「バスは上ってから降りてくるから来るよ」と言ってくれた。そこでそれから待つこと10分ほど、たしかにバスがやってきたのである。おばあさんはまだバスの乗り方を知らない(正確には約3年前に覚えたバスの乗り方を忘れてしまった)ぼくに親切にもチケットをくれ、さらに、帰りのバスの時間も聞いてくれた。日曜日は12時30分でバスは終わり(ただ、別の便は日曜でも夕方まで走っていた。1時間10分に一本という間隔で)。おかげで乗り過ごさずに家に戻ることができた。マルティニックでは、交通手段は車が基本。車を持っていない場合は、乗り合いタクシーかバスということになる。乗り合いタクシーは遠出をする場合に使い、バスはフォール=ド=フランス近郊を移動する場合に使う。前にも書いたとおり、バスは終わるのが早く、しかも、今の時期のようにストライキがあると、8時ごろまで街をうろつくのは相当の覚悟がいる。もちろん、歩いて帰れないわけではない。45分から1時間歩けば着くはずだが、問題は道である。歩道はないに等しい。そうなると、やはり夕方までに帰ってくるのがよい。こうして、マルティニックでの生活は、バス事情により、規則正しくなるのだった。

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