竹と夏芙蓉

マルティニックまで持ってきた数少ない日本語の文章のうちに中上建次のフォークナーをめぐるエッセイや講演の文章がある。『時代が終わり、時代が始まる』(福武書店、1988年)という本のなかからフォークナーをめぐる文章だけをコピーして持参した。中上建次の小説は大学生の4年生の頃だったろうか、好んで読んでいた時期がある。その後大学院修士時代くらいまでは関心が持続したと思うが、ある時期からはぱたりと読まなくなってしまった。そのような次第で久しぶりの読書(といっても短文)だったが、やはり面白い。中上がフォークナー作品に頻出するスイカズラにヨクナパトーファ郡の象徴を認め、このスキカズラに比すものとして「夏芙蓉」という架空の花を物語群の路地的場所に植えたというのは有名な話だが、考えてみれば、物語世界を象徴するものとして植物を捉えるという発想自体がそもそも面白い。そして、中上の認識によれば、日本には「竹」の構造というものがある。「竹」とは自然物ではなく人工的に植えたものであり竹薮は近くに共同体があることの証拠であるという。地下茎で伸び増殖してゆく「竹」のイメージは、中上においては「アジア」のイメージ、しかも共生・共死を可能とさせるような共同体の生理(天皇主義のもとでの共死)に結びついている。こうして捉えられる竹の比喩的イメージとは異なるものとして中上が物語世界に植えるのが夏芙蓉であるという。初夏から秋にかけて花をつけ、甘い芳香を放つというその花はいったいどんなものだろう。常夏のマルティニックではたくさんの植物が花をつけている。この黄色い花などはとにかくどこにでもある花だが、この島の自然を比ゆ的に表すとしたら、いったいどんな植物だろうかと少し考えてみたくなった。

コメント

norah-m さんのコメント…
アラマンダの花ですね。青い空に濃い黄色が映えてきれい。
私にとって、アンティーユを象徴する花といったら、炎というより血がしたたるようなフランボワイヤンの花ですけど、今は咲いていないのかな(サヴァンナ公園にはジャカランダとともにたくさん植わっていた気が)。
植物を象徴的に使う文学作品、個人的に大好きですが、四天王(上記ふたりにガルシア=マルケス、グリッサン)でいえば、すいかずら、夏芙蓉、ブーゲンヴィリア、そしてグリッサンはなんでしょうね、ひとつだけでは収まらない?
omeros さんの投稿…
アラマンダの花というのですね! たしかに青い空のもとで見ていると、とてもきれいに思えます。フランボワイヤンはいま咲いています。あの、真紅の小さい花々をたくさんつける木ですよね? そういえばセゼールの政党PPMは、真っ赤な大きな実の植物を党の象徴にしていました(語彙が貧困ですみません!あとで名前を調べてみます)。グリッサンはいったいなんでしょうね? 注意して読んでこなかったからなのでしょうが、この花だ、というのがすぐに思い浮かびません。ひとまず「レザルド川」で印象的なフランボワイヤンにしておきましょうか? 
norah-m さんのコメント…
PPMの深紅の花はバリジエbalisierです。
セゼールの棺の周りで、皆が剣のように掲げもっていたのが印象的でした(画像で見ただけだけど)。
鮮やかなフランボワイヤンの季節、楽しんでくださいね。
omeros さんの投稿…
そうでした、バリジエでした! おかげさまでこれでしっかり記憶ができました。せっかく現地にいるのでnorah-mさんのように植物の名前を(少なくとも代表的なものくらいは)覚えたいです。マルティニックを、バジリエにたとえるか、それとも写真のアラマンダにたとえるかでも、だいぶイメージが変わってきますね。マルティニックの自然のイメージは、中上建次のいう「繁茂する南」にふさわしいと思います。その意味でもフワンボワイヤンはたしかにアンティーユらしい花ですね!