マリゴのラクゼミ



9月26日(土)、北部の大西洋側に面した集落マリゴのレストラン・ゲットーでラクゼミ(Lakouzemi)が開催された。ラクゼミについては以前紹介したとおり、詩人モンショアシ(Monchoachi)が2007年8月から定期的に行っている催しである。南部の集落サンタンヌの闘鶏場で年に3回この催しを行っており、今回ははじめて新たな場所に移動した。マリゴはマルティニックの歌手兼フルート奏者ウジェーヌ・モナ(Eugene Mona)が暮らしていた地であり、命日の9月21日にはモナを祝う音楽の夕べが彼の友人や親族らの手によって行われたばかり。モナもよく来ていたに違いないレストラン・ゲットーには、入り口にセゼールの銅像がおいてあり、壁や階段にはウジェーヌ・モナのレコードが飾られている。そのレストランで「ウジェーヌ・モナへのオマージュ」と題したラクゼミは、土曜日の朝11時から夜10時まで行われた。

フォール=ド=フランスから乗り合いタクシー(通称タクシコ)に乗ってマリゴに向かうこと約45分。集落には13時頃に到着した。トタン屋根のこのレストランは、よそ者にはきわめて入りづらい場所である。土地の匂いが強いためだ。ラクゼミに参加するという目的がなければ、あえて入ることはしないだろうレストランの入り口でラクゼミの出版物を買い、なかに入る。店内は比較的広いが、窓があまりないため、明るい昼間なのにやや暗い。店内の中央ではおじさんがマイク越しにずっとしゃべり続けている。緊張しながら席に着くと、モンショアシが笑顔で迎えてくれ、ほっとした。詩人は以前来日したことがあり、早稲田大学で小さな講演をしたことがあった。その講演に出席し、話をしたことを覚えていてくれた。親切にもてなしてもらい、彼の隣の席でおじさんの話に耳を傾ける。だが、まったくといっていいほど理解できない。それもそのはず。クレオール語で話しているからだ。


黒い帽子に白いシャツ、黒いズボンという洒落た格好のこのおじさんは、後に分かったことだが、名前をアラン・レガレス(Alin Legares)と言い、クレオール語に誇りをもち、音楽、彫刻、詩など、なんでも行う多彩な芸術家であった。60過ぎであるとは思えない信じられないエネルギーで朝から晩まで話し続けていた。アランが通算何時間しゃべっていたのかは分からないが、ともかく中央のマイクにはいつも必ず誰かがおり、歌ったり、朗読したり、話していたりした。昼下がりの頃に、名前は覚えていないが、眼力のある髭の男性がジャデン・ボカイと呼ばれるクレオールの家庭菜園の話をしながら、菜園でじっさいに耕されていた食物の種を子供たちを介して配ってくれた。タマラン、ポム・カネル、パパイヤ、かぼちゃ、チチマ、インゲン豆、キュウリ等。さらには、緑を基調とした色鮮やかな衣装をまとう通称ママ・アフリカからコットンとコットンの種までいただいた。


日が落ちる頃からだろうか、レストランには多くの人たちが集まり始めた。レストランのなかで語り手に耳を傾ける人たちもいれば、外でお酒を飲みながら話し合う人たちもいた。いろいろな人と話したが、マリゴに住む一見強面のパーカショニストのミシェル、類まれなる歌唱力をもつパウロ・アタナーズ(写真中央)の、その朴訥した調子と優しさに心を動かされるものがあった。コロ・バルストの唄はあいかわらずすばらしかった。「1974年2月」はコロの代表曲となり、最初のアルバムは通算1万枚売れるという、伝統音楽ものとしては異例の売れ行きを見せたが、アルバムを作成したときにはお金がなく、歌詞カードがつけられなかったのだそうだ。Bwa Koreのパーカッショニストのジョゼ、サックス奏者のアルワン、マルティニックの音楽研究家のジャン=マルクからいろいろな話を聞かせてもらった。

結局、この集いには21時過ぎまで参加した。タクシコはすでになくなっていたため、ここで知り合った同じ方面に向かって帰る人に家まで送ってもらった。

ラクゼミには、その精神に共感をもった人々が集う。市や地方議会から財政的支援を得て行われる各地の文化的催しではなく、政治的集会でもなく、大学人の組織するコロックやシンポジウムなどではない場所。人々がそこに集い、パフォーマンスを行い、話し合うことを通じて、創造的な思想を生み出そうとする場所、それがラクゼミだ。だからラクゼミはいかなる助成も受けず、自分たちで資金をまかなう。大変なことだが、その姿勢は、本土からの経済的依存によってがんじがらめになった島の行政機構、そしてそこから資金提供されることによって成り立っている「文化」にたいする、根源的批判があるのだと思う。ラクゼミは、経済的基盤もふくめてみずから責任をもつことによって可能となるような、自律的文化空間を目指しているに違いない。

ラクゼミは、今後も月一回のペースでマルティニック各地で行われる予定。機会を見つけ、また出かけてみたいと思う。

コメント

norah-m さんのコメント…
場所も人も含めて、ものすごく豊かな催しですね。
コロ・バーストの歌はもちろん、植物の種の配布とかいいですね。ぜひ植えてみてください。
omeros さんの投稿…
ありがとうございます。そうえいば、Lakouzemiの意味ですが、ご指摘いただいたとおり、Lakouはクレオール語のラクーに由来していました。
Lakou: koté-a, le lieu: an lakou, an gran lawonn.
Zémi: Lespri-a:à la fois hauteur et profondeur, densité et beauté.
LAKOUZEMI:Réveiller l'esprit des lieux.(ラクゼミの新聞より)