海は美しい

「海は美しい。どうして海から遠く離れたまま、いつまでも生きていられるだろう? 海を見ないで何日かは過ごせる。アスファルトや石ころやセメントだけしか眼にしない日もある。でも、海を忘れ去ることはできない。ぼくは海を思っている。待ち人を思うように、思っている。」

これは、ル・クレジオの新しい訳書『地上の見知らぬ少年』のなかの一文。海をめぐる断章の冒頭の文章だ。これを読んだとき、カリブ海のことを思わないではいられなかった。これを書いていたときのル・クレジオと同じ気持ちで読んでいたようだ。少なくとも、共感をこめて。

この一年、ずっと水平線とともに暮らしてきたことが懐かしい。夕暮れの光に照らされたカリブの海は、ぼくの脳裏に今でも鮮やかに残っている。しかし、いまの生活で眼にするのは「アスファルトや石ころ」だけだ。それは新しい旅の場所となるパリでも同じことだろう。

日本に戻ってきたとき、再び訪れてみたい場所があった。サウダージブックスという、葉山にある本のアトリエである。ここは、以前このブログでも紹介した「アルフレッド・アルテアーガ+高良勉 詩選」をはじめとする、本の出版・編集を手がけている。

都会の喧騒から離れた、海と山に囲まれた場所にひっそりとたたずむようにしてある、このアトリエをぼくはたいへん気に入っている。ある晴れた土曜日の昼下がりに訪ね、オーナーの淺野さんとの久しぶりの再会を楽しんだ。帰り道、淺野さんの案内でバス停までの道を少しだけ散策した。日没にさしかかる1時間前の太陽の光を浴びながら、丘陵地帯から水平線を眺めた。日本ならこのような場所に暮らせたら幸せだろう。そう、強く思った。

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