アラン・ユーグ=デポワント裁判

カナルプリュスの制作したドキュメンタリー番組「マルティニックの最後の主人」は島のベケ支配が脱植民地化以後も変わっていないことを印象づける内容だった。この番組は昨年2月のマルティニックのゼネスト開始の直後に(再)放映され、視聴者に火をつけたといわれる。とくに、そのなかに出てくるアラン・ユーグ=デポワントの発言は物議をかもした。以下は、「ハチドリ通信」(リプレーザII-I)で書いたことを引用。

マルティニックでゼネストが始まった直後(二月六日)、島のベケ支配を印象付けた出来事があった。フランスのテレビ番組カナルプリュスが制作した『マルティニックの最後の主人』というドキュメンタリー番組の放映である。番組の前半部は奴隷制度が廃止された今もなおベケによる搾取の構造は変わっていないという印象を与える構成となっており、なかでも衝撃的であると思われたのは、自分の名前を冠した企業グループを率いるアラン・ユーグ=デポワントの白人純血主義的発想だった。ベケの家系は代々「純血」を守り続け、「混血」を絶対に容認しないとする旨のユーグ=デポワントの発言は、当然ながら波紋を呼んだ。二月九日、RFOマルティニックのジャーナリストのリサ・ダビッドはこの発言にたいし番組内でこう語った。「私たちの聞いたことは示唆に富んでいる。そういったことをもちろん知っていたが、実際に聞くとショックだ。だがこうした類のことを知らないマルティニック人はいないだろうと思う。一〇年前のことだが、SICABAM(バナナ業者団体)の当時の会長ジル・ド・レイナル氏(ベケ)に『アンティーヤ』紙の取材をしたことがあった。『あなたの娘がある日黒人を連れてくるとしたら、どうするか』と質問した。答えはこうだった。『受け入れるだろう、だが他所に行って暮らしなさいと助言するだろう。』なぜかとたずねたところの答えはこうだった。『私のカーストはそのことを受け入れる心積もりはない。』」

その後、84歳となるこの老齢のベケ*の発言は、「人道に反する罪」に相当すると判断され、弁明のための法廷が開かれることになった。2010年9月21日から22日にかけて、フォール=ド=フランス市の裁判所においてである。ユーグ=デポワントは、自分が人種差別主義者ではないこと、番組内の発言は制作側のジャーナリストにはめられたということを主張した。ジャーナリストからの申し出は、マルティニック経済についての記事を作りたいということであり、このジャーナリストの隠れた目的が「ベケ世界の調査」だったとは気づかなかったという。また、発言の趣旨がコンテクストから外されている(恣意的な番組構成)ことも主張した。過去について話していたことをあたかも現在の話のように構成した、ということである。(これについて、ルポを行ったジャーナリストは、インタビューがモンタージュによって意図的に再構成されたものでなく、彼の発言の趣旨を故意に歪曲するものではないと主張)。彼の下で働く人々もまた証言台に立ち、ユーグ=デポワントの人柄を紹介し、彼が人種差別主義者ではないことを弁護した。

*「ベケ」はクレオール語で島の白人富裕層を指す。マルティニックでは日常的に使用されており、この語には差別的意味はないといわれるが、使用の場面では蔑視的な意味合いが含まれることが多い。白人クレオールという言い方もある。

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