Oh les beaux jours

サミュエル・ベケット原作の芝居「しあわせな日々」を観に行く。普段のぼくの関心からすれば、ベケットは遠い世界だが、パリに長く住む日本の友人が誘ってくれた。その友人は、ベケットのことを(も)研究している。この芝居を見に行くのは3週間ほど前には決まっていたので、同名の戯曲を買ってみたものの、表紙を眺めるばかりの日々。そんな中、その友人が日本語訳をコピーしてくれたので、そちらをざっと読み、当日を迎えた。

オペラ近くのルイ=ジュヴェ劇場で夜の20時からだった。劇場は昔から「現代劇」を中心に行っていると聞いたが、雰囲気は小さなオペラ座という感じで、「現代劇」よりも「古典劇」の方がどうも似合いそうだ。20時ちょうどに開演すると、真っ暗になった劇場に轟音が鳴り響く。舞台の巨大なカーテンが波打ち、迫力があった。幕が上がると、黒い円形の丘の上から半身を出した中年の女性がいる。髪は金髪。服は明るい紫色のワンピース。センスを感じさせる、モダンな舞台。戯曲の舞台設定にはこうある。

焼けただれた草原の広がり。中央が盛り上がって低い円丘をなし、手前と左右にゆるく傾斜している。……円丘のちょうどまん中に、腰の上までうずもれたウィニー。50歳ぐらい。まだ艶っぽい色香が残っている。できれば金髪。小太り、腕と肩をむきだしにし、胸を大きくあけたブラウス、豊満な乳房、真珠のネックレス。……彼女のわきの地面には、左側に、買い物袋ふうの黒い袋、右側には、ただんた折りたたみ日傘がサックから握りをのぞかせて、置いてある。(『ベスト・オブ・ベケット3』より)

舞台設定は、このように突拍子もないものであり、その奇妙な空間が、まずは観客の目を惹く……はずである。たしかに今回の舞台もこのへんてこな設定が再現されているが、そこには演出家のモダンなセンスが入り込んでいるようだ。だから、なんだかカッコイイのである。

円丘には、歯ブラシや傘や買い物袋といった日用品があるかとおもえば、なぜかピストルもある。ウィリーはこの円丘で身振りをさかんにして、話し続ける。聞き手のウィニー(60歳ぐらいの男性という設定)は、ほとんどいないもの同然で、発することばも一言・二言。しかも舞台からは見えないところにいることが多い。

約1時間30分ほどの舞台だっただろうか。よく憶えていない。帰りに、三人で劇の感想を少しだけ話す。友人が、どんな劇でもよいときには感動するものだが、今回はそうした感動はなかった、という言葉に妙に感心。ぼくはモダンで派手な演出が気になった。第二幕では、ウィニーは首まで円丘にうずまっているはずだが、ぼくたちの観たウィニーは頭から黒い袋のようなものをかぶっていただけだった。たしかに首より下は動けない状態だが、うずまっているとはいわないと思う。それはぼくたちが上方の席から舞台を見下ろすようにして観ていたためなのだろうか。

どうであろうと、カッコイイ舞台だった。

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