アルジェリア文学の博士論文審査

歯茎の処置を終えてこの数日療養をしながら少しずつ快方に向かっているが、このタイミングで家族が尋ねてきたりして、なかなか落ち着かない。全快には遠いが、昨日はセルジ・ポントワーズ大学へ博士論文審査を聞きに行った。学部、大学院修士課程時代の先輩で、いまはフランスで日本語を教えながらマグレブ文学を研究されている方だ。在仏歴はもう10年以上になるのかもしれない。日本語圏でマグレブ文学を研究している人は数少ないし、パリではアラビア語も勉強されて本格的な研究者である。博士論文は、存命のアルジェリア作家ラシッド・ブージェドラ論である。アルジェリアの作家としてはカテブ・ヤシンとラシッド・ブージェドラが突出した存在として知られているようだ(作家本人にいわせれば、アルジェリア作家といえばこの二人ということになるらしい)。日本では小説『離縁』の翻訳がある。博士論文は、ほぼ10年越しの大作といってよく、ブージェドラの初期五作の小説を取りあげ、小説の構造分析と、歴史と記憶というテーマ批評の双方から迫ったもので、審査員からその論旨の明快さ、レベルの高い引用(間テクスト性によってそれ自体ブージェドラのある総体を浮かび上がらせる)、何よりも分析の厳密さと的確さが称賛された(なお審査員は4人)。日本語圏でマグレブ文学を研究するという点では、最初のプレゼンテーションでこれまでの研究歴を語られていたのが、部分的にそのことを知っている者として、感慨深かった。また、歴史と記憶という年来のテーマについては、私自身の関心と重なるところが多く、一般論としての歴史と文学、歴史とフィクションという問題圏へと開かれていくわけで、話を聞きながら、これからの自分の研究のことを考えた。次なるエドゥアール・グリッサン論の構想では、博士論文で展開した歴史と文学の問題圏へもう一度立ち戻る必要がありそうだ。

審査は無事終了し、博士号取得をお祝いする祝賀の場で、主査の先生をご紹介いただいた。マグレブ文学の専門家だが、カリブ海方面にも造詣が深い方であることはちょっと言葉を交わしただけで分かった。最近アラン・メニルという人が浩瀚なグリッサン論を出版したばかりだが、じつはマルティニックの大知識人ルネ・メニルの孫であることもその場で教えて頂いた。話の流れで、ファノンの話となり、お土産として、最近刊行されたばかりのファノンの論集と、『アルジェリア文学/アクション』誌のファノン特集を頂いた。思いがけない贈与が本当にうれしかった。

博士論文にはサン=ジョン・ペルスの詩を冒頭に掲げた『ジブラルタル奪取』というサン=ジョン・ペルスの詩を冒頭に掲げたブージェドラの中編小説の翻訳が補遺に付されていた。いずれ博士論文も形になるかもしれないが、まずはこの小説が日本で出版されることを心から願っている。

コメント

castorp さんの投稿…
『離縁』の翻訳買いました。
本の紹介どうもありがとう。
omeros さんのコメント…
お役に立てて嬉しいです。カテブ・ヤシン『ネジュマ』の翻訳もありますよ。