有田忠郎さんの訃報

先日吉本隆明が亡くなったことを知ったばかりだが、今日、偶然、有田忠郎さんの訃報にも接した(毎日新聞の記事)。詩人としての有田さんのことはまだ知らないが、これまで彼の翻訳にはお世話になってきた。錬金術関係の翻訳、リシャールの名著『詩と深さ』の翻訳のほかに、意外にも、カリブ海に縁のある仕事もなさっていた。ひとつは、ジュール・モヌロの『シュルレアリスムと聖なるもの』だ。この本は、牧神社からの最初の翻訳では『超現実主義と聖なるもの』というタイトルだったはず。原題はLa poésie moderne et le sacréだ。モヌロは「シュルレアリスト」にして「共産主義者」として出発した後、やがて「反共産主義者」、最後は「極右」に「転向」するという、ともかくむちゃくちゃな人なのだが、この人はマルティニック出身なのだ。バタイユの社会学研究会にも関与していた人だから、日本でもいくつかの文章が紹介されている。そのモヌロの初期代表作が『シュルレアリスムと聖なるもの』である。そして、晩年にはグアドループ生まれの詩人サン=ジョン・ペルスの翻訳に携わってこられた。サン=ジョン・ペルスの詩集に『風』と『鳥』がある(共に書肆山田)。いまに始まったことではないが、詩は売れないから、海外詩の翻訳もなかなかなされない。だが、詩のことばほど、日本語という言語文化を豊かにするためにはじつは重要だと思うのだが。ともかく、そうした貴重な仕事をなされていた有田さんに、ぼくは一方的な敬意と好意を抱いてきた。面識はない。グリッサンと同じ生年であったことも関係しているのかもしれない。先人が残した「遺産」を引き継ぐこと。これが残された、いま生きる人間にできることだろう。ご冥福を祈る。

コメント

工藤晋 さんのコメント…
有田さんお亡くなりになったのですか。ご冥福をお祈りします。『風』を読んで追悼したいと思います。
中村隆之 さんのコメント…
ええ、残念ながらそのようです。有田さんはサン=ジョン・ペルスの「クレオール性」について気にしておられたようでしたね。サン=ジョン・ペルスもふくめて、もっとクレオール文学の詩が訳されるといいのですが。その意味でも、恒川先生のご著書刊行が待たれるところです。