「サン・ピエール壊滅」それはすばらしいエッセイ

ジャン・ルノワールの素晴らしい映画をみたあとに河内くんからあずかった『北と南』の第3号。第1号の「仕事」特集から面白く読んできたけれど、今回の号には、まっさきに目をとおしたい文章が収録されていた。それは中村和恵さんによる「サン・ピエール壊滅」というエッセイ。「ジーン・リース研究ノートの余白に」というのが副題。このところジーン・リースへの関心が強まってきたこと、中村和恵さんの文章であること、しかも「熱帯のパリ」とうたわれ一夜にして灰燼に帰したマルティニック島の都会サン・ピエールをめぐる話であること、そう、三拍子そろっていたのだ。

「ヘスケス・ジュドゥ・ベルのこと知ってますか」と河内くん。「いや、ぜんぜん」とぼく。この人物のことはこのエッセイで詳しく紹介されているのだけれど、ジーン・リースがドミニカ島(英領で、マルティニック島の隣にある島。マルティニックの北に位置する)で少女時代を過ごしていたころに行政官の職にあった人で、「アマチュア人類学者」で日記もこまめにつけていた人だそうだ。中村和恵さんはこの人のことをリースを調べている関係で知ったようだが、すごいのはリースばかりかこの「いまではほぼ忘れられてしまった一人の役人」ヘスケス・ジュドゥ・ベルの書き残した日記までをも読んでいることだ。そのなかにサン・ピエール壊滅の出来事を伝える日記があり、その概要をこのエッセイで紹介するとともに、二頁たらずとはいえ、ジーン・リースのこの都会消滅をめぐる話「熱」を訳出してくれている。これは、なんともありがたい贈り物だ。

ジーン・リースについては、みすず書房で企画されていたコレクションが中断されたまま、『サルガッソーの広い海』だけが唯一出版されている。ぜひほかの作品も読みたいし、リースをつうじて、カリブ海の文学的拡がりをより一層知りたい。

ところで、エッセイの最後で触れられている「ティ・マリー」がとても気になる。


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