誰の「国」?

最近フランス語で書いたグリッサンに関する論考を、パリの友人に見てもらった。ぼくはその文章で、こんなフレーズを書いた。

「グリッサンの文学活動は多くの場合自分のpaysの政治的・社会的状況と関わっている」

フランス語のpaysは英語のlandに当たる。「国」、「地方」、「故郷」などを指す語だ。グリッサンはマルティニックのことをpaysと呼び続けることからこの語を用いたのだけれど、この文脈の場合、paysがフランス本土のことなのかマルティニックのことなのか分からないということを、友人に指摘されて、なるほど、と思ったのだった。ここには、外国人(=ぼく)によるフランス語表現の問題があることは言うまでもない。ただ、この話には微妙な陰影がある。その友人は、paysというのは、「フランスの地方」、「フランスの県」も意味するし、本土では「DOM(フランス海外県)」と呼ぶのだよ、とも親切に教えてくれた。だからpaysは気をつけて用いなければ、と。パリの友人にとって、paysと言えば、普通は「フランスの国」あるいは「地方」のことを指す語なのだ。カリブ海の作家などをつうじてpaysという言葉を、ぼくがカリブ海の視点で捉えてきたことをかえって意識させられたのだった。

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