闇の奥

『闇の奥』(1899年)はポーランド出身英語作家コンラッドのいわずと知れた代表作。前にも一度読んだような気もするが、この休日に読んでみた。きっかけは、毎回準備の大変な「アフリカ地域研究」の講義との関係でである。

『闇の奥』は19世紀の中央アフリカの貿易会社で働くことにした船乗りマーロウが、アフリカ滞在を終えて戻ってきたイギリスで、その滞在経験を話すというもの。マーロウの語りはすべて引用として書かれているが、話はほとんど彼の引用から成り立っている。

読んだのは岩波文庫、中野好夫訳。1958年出版ということで、ロングセラーだが、2013年に読むと、この間の日本語の変化に伴い、翻訳もやや時間が経過してしまった感はある。(*新訳が二種類出ているが、そちらは未読。)

この小説は、植民地主義、人間の心、天才、崇高、原始的なものへの恐れと憧憬、群衆やブルジョワ社会(そういう言葉は出てこないが)に対する批判など、多岐にわたるテーマが見出せ、興味深い。とくに興味深いと思ったのは、ヨーロッパとアフリカとの物理的距離が、人類の進化的時間の距離として表象されている、ということである。まさにこの点が「問題」となると思うが、私は、このおそらく19世紀ヨーロッパ的と思われる発想に、驚きを隠せない。異様すぎるのだ。この異様さが、『闇の奥』全編にみなぎっている。なにか常軌を逸している。

そう、もともとはコンゴ川(ザイール川)世界をどうコンラッドが描いたのかを知りたかったのだ。小説にはアフリカの地名が見当たらなく(見落としたのかもしれない)、民族誌的な記述も期待できなかった(「土人」とか「黒奴」などの訳語以外は)。そのなかで、興味深かったのは、次の箇所か。

なるほど、その頃はもう空白ではなかった。僕の子供時分から見れば、すれに河や、湖や、さまざまな地名が書き込まれていた。もう楽しい神秘に充ちた空白ではなかったし、ーー恣に少年時代の輝かしい夢を追った真白い地域でもなかった。すでに暗黒地帯になってしまっていたのだ。だが、その中の一つ、地図にも著しく、一段と目立つ大きな河があった。たとえていえば、とぐろを解いた大蛇にも似て、頭は深く海に入り、胴体は遠く広大な大陸に曲線を描いて横たわっている。そして尻尾は遥かに奥地の底に姿を消しているのだ。(15頁)
さて、次はティエリー・ミシェルのコンゴ川を撮ったドキュメンタリーでも観るか。

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