Au Cannet (ルカネの町で)


大学の授業の一環で学生たちを引き連れてフランスのカンヌにやってきて早くも1週間が経過した。飛行機のフライトが遅れ、ニース行きのフライトに乗り遅れたり、学生のスーツケースが行方不明になるなどのトラブルももうずいぶん前のことに思える。本来であれば、地中海に面したカンヌとコートダジュールを満喫しているはずが、あいにくの雨で、語学学校の寮で過ごす日々も多い。それでも、語学学校のアクティビティとしてモナコと「鷲の巣」エズを観光したり、学生を引き連れてフレジュスとサン・ラファエルに行ったりした。そして今日は久しぶりに晴れたので、近くを散歩することにした。カンヌ駅でなんとなく決めたのは、ルカネという町。カンヌからバスで15分ほど北に向かった丘の町だ。午後、ルカネを一通り散策したのだが、この町はピエール・ボナールが別荘をかまえ、丘から見えるルカネの風景を描いてきたことで知られるようで、ぼくもボナールの足跡をたどろうと、丘の上へ向かった。

丘からの眺めはルカネの町だけでなくカンヌと地中海も見晴らす絶景だ。しかし、見晴らしの良い場所はどこも建物で埋め尽くされている。お金持ちのレジデンスや巨大な邸宅が眺望をすべからく独占している印象だ。

それでも、観光者にもボナールがこの町を描いた丘の中腹をたどることで、この美しい風景を味わうことは許されている。気づいたら、ずいぶんシャッターを押していた。閑散とした午後、美しい光と影のコントラスト、時の止まったかのような町。散歩を満喫した。

最後にボナール美術館に立ち寄る。2011年に建設されたばかりの美術館は非常にモダンなデザインだ。点数は決して多くなく、どちらかといえばささやかな作品が多いが、ルカネや南仏を描いたコレクションは、じっくり見る価値があった。この美術館のメインは、画像にある「ルカネの景色」(1927年)である。ここに描かれている金色のミモザは実際の風景にはない。ある意味で南仏の風景の縮図として描かれたこの絵は、もともとは(おそらくユダヤ系の)富豪の依頼で制作され、その人物の大邸宅(パリ)に飾られていたものだが、第二次世界大戦によるナチス侵攻後、経営者は亡命し、この大邸宅は人の手に渡り、また絵画もアメリカに流出し、長らくその存在が知られていなかったそうである。

ルカネはこの絵にあるように美しい町だ。ぼくはこの町を歩きながらぼくの記憶にある風景を思い起こしていた。マルティニック島を。

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