2つの合評会を終えて

『カリブ-世界論』をめぐる2つの合評会を終えた。刊行から半年以上が経った3月にこの本を本格的に取り上げて議論する機会に恵まれたことは大変ありがたいことだった。

3月11日に西成彦さんの招きで立命館大学でおこなわれた環カリブ文化研究会では、第1部がラフカディオ・ハーンが採集し、セゼールがマルティニックで発刊した雑誌『トロピック』に再録された「ハチドリの話」(翻訳はクレオール語からの「原典」訳が『クレオール物語』に収録されている。訳者は西さん)をめぐって議論をおこなった。短いお話だが、いろいろなことを考えさせられる。ハチドリを鼓舞する太鼓叩きの「ニグロ」のカエルくんに関心が集中したように思える。

その後、第二部としての合評会では、西さんの司会のもと、星埜守之さん、久野量一さん、大辻都さん、佐久間寛さん、杉浦清文さん、東琢磨さんからそれぞれこの本の感想やコメント、質問をいただきつつ、それに応答するという形式で進められた。話題にのぼったトピックは、ユートピアとディストピア(日本の状況や、革命後のキューバとの比較)、文学と民族誌(想像力の重要性)、内植民地、運動史の記述などだった。13時30分から18時少し前まで話題は尽きなかったように思える。ニカラグア研究の佐々木さん、イタリア文学の土肥さん、セゼールで卒論を書く福島くん、引揚者文学を研究する原さんも参加してくださり、広がりのある会になった。

3月17日は東京外国語大学でおこなわれた。WINCという研究会で、岩崎稔さんと成田龍一さんが中心となり主催している(すでに20年も続いているという)。この研究会は外語大の海外事情研究所を会場としていることもあり、大学院生時代に何度も参加した。14時過ぎからはじめ18時までおこなわれたこの会では、粟飯原文子さんのきわめて丁寧な読解に基づいた解説とコメントをまず受け、その後、浜邦彦さんがこの本の全体にかかわる想像をかきたてる話題を提供してくれた。

参加者は20数人。議論の内容をとてもまとめることはできないが、とくに議論が深まったと思える点は、内植民地化の問題である。中山智香子さんの指摘で内植民地化というテーマのなかに、移民労働力と消費社会化のほかに、この本では強調していない「空間の開発」があることを再認識した。これはまさに11月に山森さんの招きで大阪大で話をさせていただいたときに、篠原さんから指摘を受けていたことでもある。また、浜さん、粟飯原さんをはじめ、英語圏のカリブやポストコロニアルの文学を研究されている方々が参加してくれたことから(中井さん、吉田さん。今回WINCの課題図書にすすめてくれた本橋さんはイギリス滞在中で来られなかった)、英語圏カリブとの比較の視点が得られたことも有益だった。C.L.R.ジェームズ(現在、伝記の翻訳が進行中であるとのこと)とエリック・ウィリアムズをめぐるコメントとそれにまつわる議論は刺激的だった。またトリスタン・ブリュネさんから近年のフランスにおける奴隷制の記憶にまつわる問題や、デュードネと国民戦線の関係など、刺激的な話題を提供してもらった。

個人的なことだが、近年、会う機会を逸してきた友人・知人に再会できたこともWINCで得られた収穫だった。人は人生の大半を話すことに費やしている。話すためには他の人が必要だ。話すことは、人が人を必要とする十分な理由だ。さまざまな話し相手の存在が、人生を豊かにしてくれる。けっきょく、自分の限られた場所と時間のなかで出会うことができた人が自分自身の人生だと思うのだが、どうだろうか。



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