ゼーガース『ハイチの宴』(初見昇訳、新泉社、1970)


マルティニックに行く前だから2008年だったと思うが、お茶の水の古本屋で購入したアンナ・ゼーガースの小説『ハイチの宴』(原著は1949年)。不覚にもこのドイツのユダヤ系作家については名前すら知らず、しかもハイチ革命を題材にした小説があることも知らなかった。しかも1970年に訳されていたとは。そこで当時としては高く(2800円もした)、一度は諦めたものの、その印象的な装幀に引かれて購入したことはよく覚えている。

その小説をようやく読んだ。ゼーガースは、スターリンの名を冠した文学賞を受賞していることからも、リアリズムの手法を重視するプロレタリア作家として知られる。その彼女の作品にハイチを題材にしたものがあるのだ(ナチズムを逃れてメキシコへ亡命している頃に執筆したのだろう)。

『ハイチの宴』は、まず、物語として面白い。主人公ナターンはユダヤ系貿易商人であり、フランス革命思想に共鳴するこの主人公が、トゥサン・ルーヴェルチュールと出会い、トゥサンの書記係として交流をもつ一方、トゥサンの統治下で解放された黒人少女と恋に落ち、やがて結婚し、子供をもうける。しかし、トゥサンがフランス軍に捕らえられると共に主人公の悲劇が始まる。

小説はトゥサンを中心に据えている。最後にアンリというトゥサンの片腕が出てくるが、これはのちのクリストフ王のことだろう。トゥサンが理想化して描かれることからも分かるように、フランス革命を次ぐものとしてのハイチ革命という史観が提出される。この意味でこの小説も時代の産物であり、執筆の文脈も同時に押さえる必要がある。

時代考証はしっかりしており、フランスにおける奴隷制廃止をめぐる議論などは歴史書を読むよりもイメージがしやすい。また、ユダヤ人と黒人との関係の描かれ方は、革命理念を共有するトゥサンとは協調的であったり、黒人女性マルゴとは恋愛で結びつくが、大半の黒人には白人として信頼されないという微妙な立場が描かれている。

ところで、この小説を読んだあとに「アンナ・ゼーガースの文学」というサイトがあることを知った(こちら)。ゼーガース作品のあらすじが紹介されており、参考になる。「ハイチ島の3人の女」という短編集がたいへん気になっているところだ。

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