ジェームズ『ブラック・ジャコバン』(青木芳夫監訳、大村書店、1991)


C.L.R.ジェームズの主著『ブラック・ジャコバン』の副題は「トゥサン=ルーヴェルチュールとハイチ革命」。原著は1938年に刊行された。この本は、1791年の奴隷蜂起(カイマンの森の儀式)から1804年のハイチ独立までの経緯を、膨大な一次史料に当たりながら、物語として再構成した歴史書だ。「ブラック・ジャコバン」というタイトルが示す通り、革命主義者ジェームズは、ハイチ独立戦争こそがフランス革命のジャコバン派の急進的政治理念を引き継いだ革命であることを確信をもって描いている。この著作の執筆時に意識されていたのは、アフリカ大陸における帝国主義に対する抵抗運動であることが、最後に明かされている。

語りの力が強く、引き込まれる。とくに引用される手紙などの資料は当時を知る手がかりであるし、トゥサンのみならず、彼の腹心デサリーヌやクリストフの人物造形も見事で、資料に基づいた著者の想像力を通じて、生き生きと伝わってくる。

独立を果たし、皇位に就くデサリーヌ統治下で、白人虐殺が起きる。その虐殺は悲劇だったと、ジェームズは言う。白人にとってではない。「彼らのために流してやる涙やインクは一滴たりともない」。悲劇は黒人とムラートにとってのものだ。「この白人虐殺は政策ではなく、復讐そのものであった。そして復讐というのは、賢明な政治ではない」。その結果、「何世代ものあいだ、ハイチからは、白人の姿が消えてしまった。そしてこの不運な国、経済的に破滅し、社会文化を欠いた住民からなるハイチは、この虐殺により二重の困難をかかえこまざるをえなくなった。この新生国家がともかくも生き残りえたことは、永遠に賞賛に値するだろう。しかし、ハイチ人がこれで帝国主義に終止符が打たれたと考えたならば、それは間違いであった」(366頁)。ハイチの困難はここでも現代における脱植民地運動と重ね合わせて捉えられている。しかも、予兆として。

ゼーガースの『ハイチの宴』は『ブラック・ジャコバン』の革命史観を明らかに下敷きにしている。

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