荒井芳廣『ハイチ文化論考』(小林出版、2000)

ハイチとブラジル北東部をフィールドにする民族学者・荒井芳廣氏によるハイチ文化論集。既出の論文がまとめられている。荒井氏の論考は、第1章に再録されたジャック・ルーマン論を修士時代に初めて読んだことを覚えている。代表作『水を制する者』の表紙の写真が印象的だった。

今回、著作を通読することで、ハイチ民衆文化研究の途方もない奥行きが分かってきた。ハイチを通してカリブ海を考えると、世界の見え方もずいぶん変わってくる。今までマルティニック・グアドループばかりを追いかけてきた身として、今後はハイチについて意識的に勉強する必要を痛感した。仏領カリブのクレオールと口承性については、ハイチを比較の項として絶えず意識するべきだと思った。ハイチは、カリブ海のなかでもアフリカに深く通ずる「根」の部分をもった文化であると言えそうで、マルティニック・グアドループのようなフランス系植民地文化とは相当に異なる歴史的経緯をたどってきている。

いまはどうか分からないが、識字率の大衆化が進まないハイチでは、フランス語による文字文化はエリートの専有物だった。そのことは、クレオール語を解さないフランス語使用者にはハイチ社会の多数を占める人々の文化についてはほとんどアクセスすることができないということだ。荒井氏は留学時代にクレオール語を現地で必死に覚えたようだ。日本でハイチ系クレオール語を研究言語として扱える人はいったいどのくらいいるのだろう。AA研でもし学習セミナーが開かれるとしたら、参加あるのみである。

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