アレクシ『太陽将軍』(里見三吉訳、新日本出版社、1965年)


『太陽将軍』は、20世紀ハイチ文学を代表する一人、ジャック・ステファン・アレクシスの唯一の日本語訳だ。新日本出版社の「世界革命文学選」のシリーズで刊行されたもので、翻訳は全2巻である。これも大学院生時代に入手したまま結局きちんと読まないままでいたものの一つ。

主人公は、ポルトープランスの無産の「ニグロ」、当時のハイチ民衆のように日々が飢えとの闘いにあった若者イラリウス・イラリオン。イラリオンは食料窃盗のために牢屋に入れられ、そこで共産主義活動家と出会い、階級意識に目覚めつつ、工場労働者として働く一方、クレール・ウルーズという快活な少女と出会い、結婚し、子供を授かる。しかし、イラリオンの働いていた工場が閉鎖され、失業し、さらに火事にあったり、イラリオンの教師的存在である共産主義者の仲間が逮捕・投獄されることで、隣のドミニカのサトウキビ農園にクレールを連れ立って出稼ぎに行く。そこでサトウキビ農園のストライキに参加し、労働闘争に加わるものの、指導者は殺害され、出稼ぎのハイチ人たちは、ドミニカの独裁者トルヒーヨの指示により虐殺されることとなり、命からがらイラリオンとその家族はハイチに戻ろうと逃亡をはかる……。

この小説を読みながら、いくつか思うことがあった。ひとつは、この小説の隠れたテーマが逃亡奴隷にあるのではないかということ。少数者(共産主義者)たちの地下潜伏と逃亡に創造性を見出そうとする作者の意志が感じられる気がする。とくにドミニカからハイチへのイラリオンの最後の逃避行には、農園から自由を求めて逃げる奴隷の姿が重なるはずだ。そして、舞台となるエスパニョラ島の地政学的条件が、やはりマルティニック島やグアドループ島とは異なるということ。結果として、紡がれる物語も変わってくる。フランス領カリブは、フランス本国やアフリカとの関係が強いが、ハイチ文学を構成する要素にはヴォドゥの宗教性と基層としてのアフリカ文化がまずはあって、さらにドミニカやキューバといったスペイン語圏、そしてアメリカ合衆国との関係がある。

それとともに、やはりカリブ海の文学は「開かれ」の文学である思いをあらたにした。マルティニック出身の作家を読むのでも、やはり、同時代の文学としてのハイチ出身のフランス語文学を見ないといけないし、フランス語訳された英語圏・スペイン語圏の作家の作品もあわせて読んでゆかないと、かれら・かのじょたちの文学のカリブ海的拡がりを掴み損ねることになる。その意味で、今回のおそらく一番の「発見」は、『太陽将軍』とグリッサンの『レザルド川』の共通性だ。環カリブ文化研究会用の論文でこの点もまた触れることができればと思う。

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