アンチオープ『ニグロ、ダンス、抵抗』(石塚道子訳、人文書院、2001)


ガブリエル・アンチオープ氏が2001年に上梓した歴史書。訳者は石塚道子氏。日本語で読めるカリブ海歴史研究書としては、基本文献のひとつで、いまでもこの分野では言及されることの多い名著だ。タイトルが示しているとおり、奴隷制時代の日常生活におけるダンスという集団的身体表現を主に文字資料を通じて丹念に拾い読みながら、これまで奴隷の娯楽のように捉えられてきたダンスを抵抗の表現として読み替える、緻密かつ大胆な仕事である。しかも、この本を通読することで、プランテーション社会における奴隷の生活について一定のイメージを抱くことができるところも素晴らしい。

昔はわからなかったが、この本の魅力が、これまでのカリブ海歴史研究の成果を踏まえた仕事にあることはいまならわかる。『カリブ-世界論』を準備する過程で、カリブ海フランス領に関する歴史書に多少当たったことから、『ニグロ、ダンス、抵抗』のなかで言及される歴史家や引用資料もある程度はわかるようになったからだ。もちろん一般書としても親しめるが、この本の内容を深く理解するには、専門的な知識が実は必要になる、高度な面も併せもっている。その意味でも、この著作の訳者としては石塚先生を措いてほかにいなかっただろう。

主題はダンスだが、この本の一貫した主張は、逃亡とは抵抗なのだ、ということだ。ダンスという「消極的逃亡」もまた森への逃亡という「積極的逃亡」と地続きなのだという点を論証したことに『ニグロ、ダンス、抵抗』の独創がある。その意味でアンチオープ氏の仕事は、「グリッサンの〈全-世界〉(3) 歴史物語の森へ」で論じた60年代グリッサンの「逃亡奴隷主義」に通じているとも言えるだろう。個人的には、この主張からどのようなカーニヴァル論が導き出されるのか、ということを宿題にしたい。

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