クリス・コンベッテ『ゴレ島の子供達』(メタカンパニー、2016)


実に久しぶりにカリブ海の音楽について書きます。最近、クリス・コンベッテの新作『ゴレ島の子供達』に出合いました。クリス・コンベッテは、仏領ギアナ(ギュイヤンヌ)で生まれ、マルティニックで幼少期を過ごしたミュージシャンです。

カリブ海の音楽文化で、重要な役割を果たすのはクレオール語です。コンベッテのこの作品も半分はクレオール語でうたわれます。メッセージ性の強い歌は、フランス語の歌詞という印象。コンベッテは、シンガーソングライターで、カリブ海の風景を彷彿させる明るい楽曲に、やさしく語りかけるような声で静かにうたいます。

なんといっても、耳から離れないのは、表題にもなっている「ゴレ島の子供達」というフランス語でうたわれる曲です。たぶん、歌詞を気にしなければ、とても明るく素敵な曲だと思うでしょう。ですが、歌詞はとても重い主題を扱っています。「ゴレ島」とは、セネガルの首都ダカール近郊の島で、かつて奴隷として売られた人びとがこの島からカリブ海方面へ奴隷船で旅立ったことが、広く知られています。ですから、「ゴレ島の子供達」という曲名は、それこそ奴隷制の歴史を背負う人びとにとっては、まさに自分たちのことであるとすかさず分かるタイトルなのです。そのようなわけで、この曲のなかでは奴隷船の過去が語られるのですが、しかし、それは聞き手を糾弾するような類のものではありません。そのやさしい声で淡々とうたいながら、語り出される悲痛な過去を、「憎しみ」ではなく、「憎しみ」さえも昇華するほどの懐の深い「愛」で包みこみます。

日本語盤についている訳詩で、その印象的な箇所を引用しましょう。

もしぼくたちの心が/彼らの苦しみの叫びがこだまする音を聞いて/沈黙しながらも苦しみ血を流すなら/決して暴力によってではなく/これが明白になるよう振る舞おう/『クレオール』はいつまでも『アムール』と韻を踏む

最後にある「クレオール」とは、混血の民としての「クレオール」であり、その心をあらわす「クレオール語」でもあるでしょう。その「クレオール」という単語のうちには、「アムール=愛」という音がずっとずっと響いているんだ、というメッセージです(シャモワゾーの『カリブ海偽典』を読んだことのある人なら、このメッセージが主人公バルタザールの行き着いた「大いなる愛」とも響いていると思うことでしょうし、エドゥアール・グリッサンの「関係」の詩学もまた、このことをずっと語ってきました)。

日本語盤には訳詩のほかに、このCDの販売を手がける海老原政彦さんによる、充実した解説がついています(販売元のメタカンパニーのサイトはこちらです。このサイトでプロモーションビデオを見ることができます)。お薦めの1枚です。

コメント