絲山秋子『離陸』(文藝春秋、2014)




人は思わぬことから自分の知らないものに出会うことがよくあります。たとえば、この作品に出会ったのは、作中にエメ・セゼールやマルティニックのことが登場すると研究仲間から聞いたことがきっかけでした。絲山秋子の長編小説『離陸』です。その小説の面白さについては、ネットで公開されている次の書評が見事に示しています。(こちら

セゼールのことやフランス海外県のマルティニックのことは主に前半部で話題になります。たとえば、こんな会話(123ページ)。

「エメ・セゼールは詩人だよな?」
そう、エメ・セゼールはマルティニークのひとだった、家のどこかにある詩集を一度読まなくてはと思った。乃緒がぼくの部屋に詩を書いたのが、おそろしく昔のことに思えた。
「詩人だが、政治家でもあった。だが彼の主義は揺れたし、政治は迷走した。サンゴールは独立を果たしたけれどセゼールは海外県を選んだ。つまりフランスと同化する政策をとった。どのみちフランスにとってアンティーユ諸島の問題なんて小さなことだよ。フランスはいつの時代でもヨーロッパで一番になることで忙しいからな。」

こういう会話が作中に出てくると、カリブ海愛好家としてはとても高揚します。マラヴォワやフランツ・ファノンの名前も出てきます。もちろん、これは小説の一要素に過ぎないのですが、登場人物にマルティニック出身や、マルティニックの親をもつ子が出てきたりして、この島は最後まで小説の後景をなしています。

小説の最後に「参考文献」が掲げられており、セゼール、ファノンの著作をはじめ、小説の題材となったさまざまな文献があげられていて、興味深いです。

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