ジャッキー・ケイ『トランペット』(岩波書店、2016)

この冬休みは、ジャッキー・ケイ『トランペット』中村和恵訳(岩波書店、2016)を読んで過ごしました。おもて表紙の帯にはこうあります。「実話をモデルにとった、驚愕のストーリー。現代スコットランドを代表する作家の傑作、ついに邦訳!」そして大きく「おれのお父さんはあなたの娘だったんです」

また、こういうリード文も。
「家族にはそれぞれ他人にいえない秘密があるもんさ」
「人気のトランペット奏者ジョス・ムーディが死んだ。遺体が露わにした驚愕の事実にマスコミは大騒ぎ。混乱する息子、追いこまれる妻ーーそれぞれに辿り着いた〈本当〉の〈彼〉とは?恋と愛とセックスと音楽、そして家族の物語」

なんだか奇妙なストーリーにちがいないと最初は好奇心から読み進めることになるとおもうのですが、わたしがこの小説からうけとった一番のメッセージは、それぞれのひとには、それぞれのひととの、かけがえのない、単独的な、対の関係があるということであり、その深まりのあらわれのひとつが、長く時間をともにしてきた家族(父と子、夫と妻、子と母、等々)なのだということです。愛することをめぐる物語。

好きな場面を引用しておきます。

音楽は過去を生かしておく手段の一つなんだ、親父はそういった。未来よりも過去のほうにたくさんの未来があるんだ、そういっていた。黒人と音楽。黒人と音楽。黒人と音楽がなかったら世界は一体どうなってしまうのだろう。奴隷の歌。労働歌。ゴスペル、ブルース、ラグタイム、ジャズ。(…)ストーリーはブルースにあるんだ。ブルースはみんなストーリーだ。おれたちのストーリー、と親父はいった、おれたちの歴史。奴隷の歌のことを知らないで奴隷制度の歴史はわからない。
これは父であるジョスが息子のコールマンに語ったセリフです。最近、「変わりゆく変わらないもの」をテーマに『ユリイカ』1月号「アメリカ文化を読む」で文章を書いたこともあって、個人的にはそこに結びつくこともあるのですが、「黒人の音楽」と3度繰り返すところに、ジョスの母親イーディスが、やはりコールマンに3度同じことを繰り返して言う習慣(?)に気づかされるからでもあります。

多くの人に出会ってもらいたい、かけがえのないストーリーです。


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