『動物の声、他者の声』合評会



この日曜日、科研の研究会が開催されました。このブログでは、代表を務めている「プレザンス・アフリケーヌ」研究会や、立命館大学の「環カリブ文化」研究会について主に告知してきましたが、ほかにも、いくつかのプロジェクトに関わっており、そのうちの1つが「ポスト世界文学」を掲げる、ブラジル文学・音楽の福嶋伸洋さんを代表とする研究会です。東欧文学の奥彩子さん、マグレブ文学の鵜戸聡さんをはじめ、多彩な顔ぶれのこの集いも、早いもので、今年がプロジェクト最終年度に当たります。

2018年度の最初の研究会は、メンバーである村上克尚さんの単著『動物の声、他者の声』(新曜社、2017年)を取りあげた合評会をおこないました。先述の3人に加えてアルバニア文学の小林久子さんが本書をめぐって報告し、それに著者の村上さんが応える、という形式で、早稲田大学を会場に、15時過ぎから18時までおこなわれました。

それぞれの章がすべて既出の論文から構成されており、およそ8年をかけて書かれた博士論文に基づくことから、非常に完成度の高い著作であるというのは報告者の共通の意見でした。動物と人間の境界線が引かれたとき、「人間」と見なされない者たちが「動物」のように扱われる、という問題意識に貫かれており、その分析の枠組みがどの作家・著作に合致し、あるいは合致しにくいのか、というようなコメントや、動物の多様性や人間との関係性をめぐるコメントなどが提出され、あらためて、この著作の有する射程の広がりを感じた次第です。

日本の戦後文学の読み直しの試みとして、作品の読解に動物という着眼点を導入した著作として、今後も参照され続けるお仕事だというのもまた、合評会で共有された感想だったように思います。

時間があればご本人にも伝えたかったことを最後に記しておくと、昨年、マルティニックのアンティル大学でグリッサンの小説『痕跡』(原題はLa case du commandeur)を題材に、グリッサン作品における動物に関する発表を行なったのですが、その発表を思いつくきっかけを与えてくれたのは、ディープエコロジー関係の議論や、村上さんのお仕事だったことがあり、個人的にも感謝しています。肝心の原稿は、フランス語の口頭発表原稿のままで、これを論文として活字化する時間的余裕がいまのところはないのですが、小説に出てくる、犬、蛇、雄牛、アリといったマルティニックやカリブ海の人々の生活と切り離せない動物たちがどのような存在として書き込まれているのか、を発表では分析しました。とくに、アリは、グリッサン文学にとっては集団的記憶に結びつく形象であり、興味深いもので、これはシャモワゾー作品にも同じ意識のもとで反復されていると考えています。

写真は、カマルグの白い馬(フランス)で、ずいぶん前に撮影した一枚です。


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